muzzle or muzzle

 魅了する者と
 紛ひ者

 頭部と同じ高さの崖に ぴよんと飛び移つて
 芝生に轉がる

 君は夜空に手を伸ばす
 お前は傷めた膝に手を伸ばす

「メール送るのやめてよ」
「なぜ?」
「全部見られてる」
「それがどうした」

「君の關係者と思はれたくない」
「フン」

「臆病者め」
「君が行き過ぎてるだけさ」

 摑めさうで 摑めない
 あの輝きは 本當にあるのか?

「今も充分危險なのに」
「それだけの價値があるんだろ?」

 離せさうで 離せない
 その强さは 本物だから

「この空だけが知つてゐる」
「つまり 逃げられないつて事だね」

 星はいつでも瞬いてゐる

 月はいつでも輝いてゐる

 私たちを照らし
 僕たちを追ひ掛ける

「眞ん中に河があつて 會へるのは一日だけなんだつて」
「私は待つたりしない」
「河を吹つ飛ばしちやつても 別に良いよね」

「もう何囘目?」
「……」

「『次は?』つて聞かないのか?」
「……」

 君の手は冷たい
 お前の手は熱い

「ねえ 眼瞑つて 一瞬だけで良いから
 でも 怒らないつて 約束して」
「なにをする氣だ?」
「…… ヒミツ」

 まあ今日は貸しがあるからなと言つて
 ACではないけれど

 視界を斷てば
 沈默と
 闇と

 感覺だけ

 觸れるのは唇か、銃口か――

(いづれにしても
 こいつは 私の口を 塞ぐ氣なんだ)